不況は企業を鍛えない

イノベーションには潤沢な資金が必要

これも典型的な筋肉経済学だよなあ。経済を何かフィジカルな、負荷を与えると鍛えられるようなものと考えているようだ。しかし逆の可能性は考えられないのだろうか?就業できなかった人たちは当然ながらOJTという実践に即した職業訓練の機会を失うことになるし、企業の経費削減により人材への教育訓練投資も減らされる場合が多い。失業や倒産といった事態は個人や企業に蓄積されてきたノウハウなどの知的資源の滅失をもたらす。家庭の経済的理由から進学を諦める若者も増える。不況そのものが将来への見通しを消極的なものにし、未来への投資を躊躇させるインセンティブの大元なのだ。経済は人体とは違う。不況下で鍛えられるというような状況証拠は何もないし、むしろ強引に人間に例えるのなら逆に「栄養不足の過酷な環境で長いこと過ごしたために体がガタガタになってしまった半病人」みたいなもんじゃないだろうか?

全くそのとおり、イノベーションの成功率は低いので、画期的な発明は資金の潤沢な企業においてなされることが多い。ちょうど、「初代Macintosh、25歳になる」という記事がある。このMacintoshの基になったアイデアの多くがゼロックスパロアルト研究所に発していることは、多くの人が認める事実である。ゼロックス独占禁止法で規制されていたことなどもあり、商用化こそ必ずしもうまくいかなかったが、現在のコンピュータで使用されている技術の多くがパロアルト研究所で開発されている。

成功例だけを見るから不況が企業を鍛えるように見える

不況により追い込まれた企業がいちかばちかの賭けにでる。大部分は、賭けに失敗して倒産する。だが、ごくまれに賭けに成功する企業がある。賭けに成功した企業を後知恵で評価するから、不況が企業を鍛えるように見える。