自然科学を無視つづけてきた経済学

しかしこういう不備は、自然科学をモデルにしているためだ。人間の複雑な行動が古典力学のように単純な理論で説明できるはずがないし、実験によって日常の行動が再現できるわけでもない。そもそも人間の意思決定が「価値関数」のような数値として表現されるという発想が、人間を「快楽を最大化するロボット」と考える功利主義の変種である。人間を本質的に理解するには、認識論レベルから見直す「パラダイム転換」が必要なのではなかろうか。

いや、まず自然科学と同じスタート地点に立つことが経済学には必要だろう。「自然科学モデルの限界」を議論する以前に自然科学モデルをちゃんとマネすることが必要だろう。「人間の行動」は確かに複雑だが、物理法則に制約されている。従って、物理法則に反する行為は不可能であり、物理法則に反する行為をしようとすることは非合理的である。ところが、完全競争市場などの経済学のモデルは、物理法則を捨象してしまっているため、物理法則に反する行為をしようとすることがモデル内部では合理的になっているケースが多々ある。まず、自然法則に反しない経済モデルを作ることから始めるべきだろう。