「児童ポルノ法改正」における「準児童ポルノ」の違法化の問題性についてはあちこちで話題になっているが、単純所持の違法化が極めて危険なことは、それほど話題になっていないようだ。単純所持の違法化に批判的なものもいくつかある。だが、重要な点が抜けているようだ。
そんなわけで、あんまり明るい見通しがないのだが、個人的に「イマココ」の問題として、単純所持処罰がどう困る問題になるか、というと、やっぱり単純所持処罰があるとネットに安心してアクセスできなくなるのが困る。あえて非常にぶっちゃけた話をするのだが、英語圏はイギリスのInternet Watch Foundationあたりがものすごい勢いで通報処理をこなしたからか、とりあえず、GoogleとかマイクロソフトLiveとかの検索で、そう簡単に児童ポルノ画像に行き当たることはない。でも、日本語圏は、まだまだ通報機関がそんなに仕事をこなしておらず、警察もかなり強制捜査対象を厳選しているらしく、あまりに容易に検索経由でアクセスできてしまう。Googleやマイクロソフトのサーバーから児童ポルノのサムネイル画像が多数ブラウザーに読み込まれる、という状況がある。
インターネット社会になって難しいのが、この所持するという概念である。例えばある児童ポルノのイメージデータがあったとしよう。これを所持するとは、ごく単純に考えると自宅のPCのHDDに保存したり、DVD-RやCD-Rに保存する、あるいはプリントアウトするといったことに当たるだろう。
だがこれをネットまで含めて考えると、妙なことが沢山起こる。例えばスパムメールに添付されてそれらの画像が送り付けられてきたらどうか。メールは見る前に消してしまえばいいかもしれない。しかし最近では、メールのバックアップとしてGmailや携帯などに転送をかけている人もいるのではないだろうか。
ローカルPC内の画像は消したが、転送されたほうはすっかり忘れて、そのままになってしまうかもしれない。Gmailのファイルはローカルにはないが、データの所有権はおそらく本人にあるということになるだろう。つまりネットの世界では、「所持」という概念が、自宅内を超えるわけである。
ダウンロード違法化問題でも同じ点を指摘したが、PCとインターネットの関係では、ダウンロードと閲覧の区別など付かない。ネットサーフィン中に意図せず児童ポルノ画像に行き当たっただけで、ローカルPCにはキャッシュが生成される。これは所持なのか。
「所持」という概念の曖昧さが問題になっているが、それ以前に(児童ポルノの)画像かどうかがわからないという問題がある。ダウンロードしたり、メールで受け取ったりした、一見無害なファイルが児童ポルノ画像かもしれない。事実上ほとんど全ての人が児童ポルノ単純所持の罪を犯すリスクがあるということになる。
デジタルデータは本質的にはビットの集まりに過ぎず、画像とか音声とかいった区別はない
デジタルデータは本質的には1と0からなるビットの集まりに過ぎず、画像とか音声とかいった区別はない。単なるビットの集まりだから、そもそも音声を記録するのフォーマットであったCDを、CD-ROMとしてプログラムや画像の記録に使用したりできる。ネットで画像や音声やプログラムをやりとりできるのも、単なるビットの集まりとして扱っているからである。画像として扱えるのは、あるフォーマットのデジタルデータを画像として扱うプログラムがあるからである。音声やプログラムも同様である。デジタルデータはそれを処理するプログラムと対で考える必要がある。