現実の経済に適用できない経済学のモデル

取引コストが「ゼロ」であることを前提としている(ミクロ)経済学のモデル

暑い夏こそホットドリンクを売るべき」というようなおかしな結論になるのは、経済学が大きく間違っているからです。辻褄合わせのため、限界費用逓増などの無理をしているからです。均衡モデルなどの多くの(ミクロ)経済学のモデルは、商品の代価以外、取引に関わる様々なコスト(時間も含む)が「ゼロ」であることを前提としています。現実の経済には、取引コストがありますから、こうしたモデルから導かれる理論を現実の経済に当てはめるのは一般には誤りです。こういうことを言うと、物理学で、理想気体や完全黒体といった理想化して考えるようなものだと主張する人たちがいますが、物理学での理想化と取引コストが「ゼロ」である経済学のモデルとでは決定的な違いがあります。理想気体や完全黒体をベースに現実の物体にモデルを近づけることができるのに対して、取引コストが「ゼロ」であるモデルから、取引コストを取り入れて現実の経済にモデルを近づけることは一般にはできません。現実の経済に近い取引コストが「ゼロ」でないモデルを構築するには、モデルを最初から構築し直す必要があります。

取引コストが「ゼロ」でない現実の経済に「ゼロ」であるモデルでの理論は論理的に適用できない

取引コストが「ゼロ」であることを前提としているモデルでの理論を取引コストが「ゼロ」でない現実の経済に適用するのは論理的に誤りです。取引コストが「ゼロ」でない場合も成り立つ理論かもしれませんが、成り立つことが証明されるまでは、論理的に誤りとして扱われるべきです。

取引コストが「ゼロ」であるモデルで現実の経済を近似できる根拠がない

厳密に正しくなくても近似として扱うという考えもありますが、この場合、どの程度の誤差かということがわかっていなければなりません。大気中の石の落下ならば、真空中の落下で近似できるかもしれませんが、大気中の木の葉の落下を真空中の落下で近似できません。取引コストが「ゼロ」であるモデルで正しいから、現実の経済でもそうなるはずだと言うのは、「真空中で木の葉が石と同じように落下するから、大気中でも木の葉が石と同じように落下する」と主張するようなものです。

取引コストが「ゼロ」であるモデルに取引コストは付け加えられない

摩擦が「ゼロ」であるモデルに摩擦を付け加えることはできます。理想気体に分子間力を付け加えることはできます。しかし、取引コストが「ゼロ」であるモデルに取引コストは付け加えられません。取引コストは、その大部分が取引の前に発生し、その取引コストに関する経済判断は取引の前に発生します。それら経済判断は、各々それ以前の経済判断に依存します。経済学では、経済判断を効用関数とか費用関数とか関数の一種として考えます。一連の経済判断の連鎖は、合成関数と考えることができます。そして、合成関数の交換法則は一般に成り立ちません。取引コストが「ゼロ」であるモデルに取引コストは付け加えられません。最初からモデルを構築し直すしかありません。

取引コストを考慮するとモデルが大きく変わる

取引コストを考慮するとモデルが大きく変わる場合があります。取引コストが「ゼロ」でない場合、以下のようなことがわかります。

  • 取引においては、異なる取引相手の扱う同じ商品が区別される。
  • 供給曲線は一般に存在しない。

同じ商品を二人の取引相手から1個ずつ買うのと一人から2個買うのでは、取引コストが変わってきます。取引コストの影響を受けるため、取引においては、異なる取引相手であれば、同じ価格の同じ商品を区別して扱います。同じ商品ならば無差別に扱うというのは、証券取引所や商品取引所のように無差別に扱うことを制度化された場合だけです。このように、取引コストが「ゼロ」でないモデルは、取引コストが「ゼロ」であるモデルと似ても似つかないモデルになることがあります。