「大リーグでは、フリーエージェントにならずに再契約した選手とフリーエージェントになって移籍していった選手の成績を比べてみると、平均的にみればフリーエージェントの方の成績が劣っている」という話がある。
これは、目先の競争の勝敗にこだわって価値以上の価格を付けるという「勝者の呪い」と見なせる。このようなことはけっして珍しくない。「勝者の呪い」に関しては、『市場と感情の経済学―「勝者の呪い」はなぜ起こるのか』という本すらある*1。
経済学の本末転倒
経済学が想定している合理性は、所詮近似に過ぎない。したがって、論理的につきつめようとするとあちこちで破綻する。「勝者の呪い」はその一例である。
ニュートン力学では、現実の物体の運動を抽象化して摩擦が無いものとして物体の運動を考えることがよくある。だが、現実の物体の運動に摩擦が無いと考えるわけではない。ところが、経済学では、現実の個人や企業の行動が合理的であるかのように考えることが珍しくない。現実の個人や企業の行動を説明する手段として、合理的であると近似することを否定するつもりはない。だが、それは近似にすぎず、ある程度の範囲で通用するに過ぎない。現実の個人や企業の行動が常に合理的と考えるのは、本末転倒である。