経済学が役に立たない理由(4)

右上がりの供給曲線は供給量が需要量以下であることを前提としている」と書いた。では、なぜ均衡モデルでは供給者が「供給量が需要量以下である」かのように行動すると考えるのだろうか?それは、均衡モデルでは、同じ種類の製品やサービスを無差別的に扱うと仮定しているからである。無差別的に扱うと仮定しているから、個々の経済主体における数量を単純に加算して市場全体の数量を求めることができる。だが、これは通常の取引においては論理的に成り立たない。通常行われる相対取引においては、取引相手を決定してから取引するため、種類が同じ製品やサービスであっても、取引相手が異なれば無差別的に扱うことはできない。

需要家が同じ種類の製品やサービスを無差別に扱うのであれば、供給者は「供給量が需要量以下である」かのように行動する

需要家が同じ種類の製品やサービスを無差別的に扱うのであれば、供給者にとっての需要量の期待値は以下のようになる。

	供給者にとっての需要量の期待値 = 市場全体の需要量 × 供給者の供給量 ÷ 市場全体の供給量

一つのつぼから玉を無差別に1個取り出す時、ある色の玉を取り出す確率がその色の玉がつぼの中の玉に占める比率で決まるのと同じである。この場合、供給者にとっては、供給量を増やせば増やすほど需要量の期待値も増える。市場全体の供給量に対して供給者の供給量が無視できるほど小さければ、供給者にとっての需要量の期待値は供給者の供給量に比例すると見なせるから、供給者は供給者にとっての需要量が無限大であるかのように行動する。すなわち、供給者は「供給量が需要量以下である」かのように行動する。

需要家が供給者を無差別的にせよ選択するのであれば、供給者は「供給量を需要量に一致させる」よう行動する

需要家が供給者を無差別選択するのであれば、供給者にとっての需要量の期待値は以下のようになる。

	供給者にとっての需要量の期待値 = 市場全体の需要量 ÷ 供給者の数

無差別的でない選択を含め、需要家が供給者を選択する場合を一般化すると、以下のようになる。

	供給者にとっての需要量の期待値 = 市場全体の需要量 × 供給者を選択する確率

つぼ毎に異なる色の玉の入った複数のつぼから玉を1個取り出す時、ある色の玉を取り出す確率がその色の玉が入ったつぼを選ぶ確率で決まるのと同じである。このように、需要家が供給者を無差別的にせよ選択する場合は、供給者にとっての需要量の期待値は供給者の供給量とは無関係に定まる。したがって、供給者は在庫が増え続けないように、「供給量を需要量に一致させる」よう行動する。

通常行われる取引は、取引相手を選択して行う相対取引である

取引相手を選択せずに行う取引は限られている。一般人が参加できるのは、証券取引所での株の売買やネット・オークションでの売買など、ごく限られている。通常行われる取引は、取引相手を決定して、すなわち選択して行う相対取引である。均衡モデルは、証券取引所での株の売買やネット・オークションでの売買には適用できても、多くの普通の取引には必ずしも適用できない。