賃金が下がっても労働需要は増えない

若者の所得格差拡大」というエントリで、正社員の賃金があまり下がらず、新規の雇用がパートなどの非正規労働に集中して若者の所得格差が拡大したと書かれていた。「若者の所得格差が拡大した」ということには異論がないが、気になる箇所がある。

若年層における所得格差拡大は、超就職氷河期がもたらしたフリーターと失業の増加によって引き起こされている。それでは、どうして超就職氷河期がもたらされ、それがフリーターの増加につながったのだろう。

最大の理由は、不況がもたらした労働市場における需要の低下である。ただ、需要が低下しただけではフリーターや失業の増加につながらない。賃金が低下すれば、労働需要はそれだけ増えるからである。実際、マクロ統計でみると90年代に下方硬直的だった日本の賃金は、98年以降低下し、下方硬直性が解消したようにみえる。このとき、全労働者の賃金が平均して下がっていれば、失業や賃金格差は発生しないはずだ。しかし、現実に生じた賃金低下はそのようにして発生したのではない。正社員の賃金低下は、わずかに止まった。そのため、リストラが発生し、新規採用は大幅に低下した。採用は、非正規労働に集中した。

「賃金が低下すれば、労働需要はそれだけ増える」と書かれているが、はたしてそうなのだろうか?賃金が下がっても労働需要はほとんど増えないのではないだろうか?

賃金が下がれば、雇用のコストに対して解雇による訴訟などのリスクが相対的に上がるからリストラ等は発生しにくくなる。だが、新規採用は増えるだろうか?賃金の低下は、余剰人員を多く抱えている企業が雇用を継続するのには効果があるだろう。だが、賃金が低下したからといって、採用を増やす企業はあまりないように思う。

例えば、1台のPCでは、サーバ用のものを除けば1個のマイクロプロセッサしか使用しない。したがって、PCメーカのマイクロプロセッサの需要は、PCの生産台数に依存する。マイクロプロセッサの価格がマイクロプロセッサの需要に影響を与えるのは、価格が高騰している場合であり、価格が安い場合には、需要への影響はほぼ無視できる。

通常、ある生産要素の価格が下がっても他の諸条件が変化しなければ、生産量は増やせない。生産量が増えないということは、その生産要素に対する需要も増えないということである。ある生産要素の価格の低下がその生産要素の需要の増加につながるのは、その生産要素の価格が高く、それが生産量増加のネックになっている場合においてである。