均衡モデルの非現実的な仮定

経済学の均衡モデルの最もおかしな仮定は、「個別の供給曲線の和が市場全体の供給曲線となる」、「個別の需要曲線の和が市場全体の需要曲線となる」という仮定である。仮に供給曲線や需要曲線が存在するとしても、このような仮定ができるかどうかは全く別の話である。

f(x+y)=f(x)+f(y)は一般に成り立たない

単なる物理的な量としてなら、「個別の供給量の和が市場全体の供給量」、「個別の需要量の和が市場全体の需要量」として扱って問題ない。だが、ここで扱っているのは、需要家の行動を決定する需要家にとっての供給量、供給者の行動を決定する供給者にとっての需要量であり、単なる物理的な数量ではなく、物理的な数量がもたらす作用の量と呼ぶべきものである。
物理的な数量がもたらす作用として考えると、個別の数量の和を市場全体の数量として扱うには、物理的な数量xがもたらす作用f(x)に関して、「f(x+y)=f(x)+f(y)」の関係が成り立たなければならない。だが、関数において一般にこれは成り立たない。

均衡モデルではそう仮定しているのだという主張はできるが、その仮定が現実の経済とかけ離れたものであるため、均衡モデルを現実の経済の近似モデルとして扱うことは通常できない。
ある条件下で合理的な行動は、他の条件下でも合理的とは限らない。均衡モデルを擁護する人々は、均衡モデルを物理学などの理想化、単純化したモデルに喩える。だが、物理学などのモデルと現実との違いが連続的なものであるのに対して、経済においては、条件により行動が切り替わるため、モデルと現実との違いが不連続的なものになりうる。この場合、モデルは現実の理解の助けにはならない。