都合のいい例だけ取り上げれば何でも言える

不況は創造的破壊のチャンスだ」というエントリを読んで、結果を見て、都合のいい例だけ取り上げればほとんど何でも言える、と感じた。

マルクスシュンペーターが論じたように、創造的破壊こそ資本主義の本質的なメカニズムである。うまく行っているときはコーポレート・ガバナンスなんて必要ない。危機に陥ったとき、古い企業を解体して資本市場で所有権を移転し、新しい挑戦者が参入するメカニズムが資本主義なのだ。その意味で、今週のASCII.jpにも書いたが、日本にとっても今が破壊的イノベーションのチャンスである。 こう書くと、「不況のときは創造的破壊もできない」という類の反論があるかもしれないが、これは誤りである。Economist誌も指摘するように、アメリカ経済が最悪といわれた1980年代に、マイクロソフトもアップルもシスコもオラクルも育ったのだ。これは特記する価値がある。というのは、竹森俊平『経済論戦は甦る』以来、日本では「創造的破壊は清算主義だ」という俗論がまかり通っているからだ。

1980年代を乗り切れなかったアメリカ企業は、はるかに多いけど……。結果としてうまくいった企業だけを取り出せば、「不況は創造的破壊のチャンスだ」と思えるかもしれない。これは、株は長期保有べきだという論法と似ている。

  • Buy & Hold...長期保有
  • 「株は持っていればそのうち上がる」とはよく言われる。
  • どれくらいの確率でそうなるのだろう?

こういう長期保有の例で挙げられるのは、今も存続している会社である。倒産して株が紙屑になってしまった会社が挙げられることはない。確かに、今も存続している会社の株式をずっと以前に買っていればかなりの儲けになるだろう。だが、買った時点では、その会社が倒産したりせずに存続し続けられるとわかるはずがない。ある会社の株を長期保有していれば儲かるというのは、結果としてうまくいったケースを取り上げているに過ぎない。

「長期保有すれば...」という甘い囁きには耳を貸さないことだ。

その通り、この論法にはインチキがあるのだから……。

そもそも不況期にリストラしなければ、いつするのか。景気のいいとき社員をクビにする社長がいたら、見せてほしいものだ。

「不況は創造的破壊のチャンスだ」という言葉だけなら、ポジティブ思考と思えるけれど、こんなことを言われると、クビ切りしか思いつかない無能な経営者をかばって、目先をごまかそうとしているとしか思えない。本気で、「不況は創造的破壊のチャンスだ」と思っているのなら、無能な経営者を正当化するようなことを言うのではなく、「不況の時こそ会社を辞めて起業しよう」とか言うべきだろう。