ISバランス論の摩訶不思議(3)

ISバランス論の摩訶不思議(1)」、「ISバランス論の摩訶不思議(2)」に関する批判がありましたが、正直、その批判自体が摩訶不思議なものでした。

ISバランスが経常収支より先で全く別な話?

さらに、一番重要な点は、ISバランスは、貯蓄-投資(差額)式です。カネの流れを示す式です。 なぜ、カネの話をしているのに、いきなり、経常収支の話を持ってくるのですか? 両者は全く別な話です。 それを一緒に論じる時点で、話がおかしいのです。

「両者は全く別な話」ならば、なぜ、「ISバランス論です。カネが先、実物取引は後なのです。」と書いたのでしょうか?

野口旭『グローバル経済を学ぶ』

答えは、資本収支が赤字(黒字)「筆者注:国際収支表記載マニュアルの変更により、現在は『金融収支が黒字(赤字)』」だから、経常収支が黒字(赤字)になるしかありません。そしてまさにそれが正しい答えなのです。

経常収支が動くためには資本収支(筆者注:現在は金融収支と表記)が動かねばならず、その為には貯蓄・投資バランスが動かなくてはならないからです。これが経常収支の定義と、それについての論理的推論から導かれる真実です。

ISバランス論です。カネが先、実物取引は後なのです。

このように書かれていたから、「逆では?経常収支が先で金融収支(資本収支)が後でしょう?」と書いたのですが?

恒等式・定義式は思考実験はできない?

ただ単に、右辺≡左辺と言うだけですから、よく巷で言われる、「IMを減らせば云々」「これをゼロにして思考実験すれば」ということが、全く意味をなさないことが分かると思います。

思考実験はできます。「ISバランス論の摩訶不思議(1)」で例に挙げた「他の国がその国との取引を完全に停止すれば、経常収支はゼロとなります」は、理屈の上では、現実にも実行可能です。日本ならば、島国ですから、機雷で海を封鎖し、海底ケーブルを切断し、飛行機は直陸したところで乗員ごと取り押さえる。といったところでしょうか。陸続きの国々の場合は、さらに、国境線を地雷や鉄条網で封鎖することになるでしょう。もちろん、こんなことは、戦争でもなければ不可能で、戦争中でも完全な実施は困難でしょう。じかし、全く現実にはありえないということでは無いです*1。もちろん、これは、「日銀は発行済みの円建て国債を全て買い取ることができる」といった思考実験と同じように非現実的です。しかし、できるか否かという点では、理屈の上では可能です。

もしかして、取引には相手がいることを忘れている?

さらに、一番重要な点は、ISバランスは、貯蓄-投資(差額)式です。カネの流れを示す式です。」カネの取引だろうが、モノ・サービスの取引だろうが、相手がいてこそです。相手側のSやIは無視ですか?取引には相手がいることを忘れているのではありませんか?「相手のある取引が一方だけの都合で決まる?」と疑問を投げかけたのは、そういう意味です。

*1:実際に、太平洋戦争末期の日本は機雷で海をほぼ封鎖されていました。