ISバランス論の摩訶不思議(5)

GDPに関して、以下のようなことが理解されていないようです。

  • 相互に支出し合うことにより、GDPはいくらでも増やせる
  • 相互に投資し合うことにより、貯蓄(S)はいくらでも増やせる

相互に支出し合うことにより、GDPはいくらでも増やせる

資源とかの制約があるので、現実にはいくらでも増やせるわけではありませんが、相互に支出し合うことにより、計算上は、GDPはいくらでも増やせます。

例1

以下のような仮定を置くとします。

  • A氏は、リンゴ農園を営んでいる。
  • B氏は、ミカン農園を営んでいる。
  • A氏、B氏以外の経済主体は、ここでは考えない。
  • A氏は、100円を持っている。

A氏とB氏が相互に取引することにより、消費(C)、投資(I)、総生産(Y)、貯蓄(S)は以下の表に示すように変化していきます(Xyは各自の分)。

Ca Cb C Ia Ib I Ya Yb Y Sa Sb S
(1)A氏がB氏から100円でミカンを買う。 100 0 100 0 0 0 0 100 100 -100 100 0
(2)B氏がA氏から100円でリンゴを買う。 100 100 200 0 0 0 100 100 200 0 0 0
(3)A氏がB氏から100円でミカンを買う。 200 100 300 0 0 0 100 200 300 -100 100 0
(4)B氏がA氏から100円でリンゴを買う。 200 200 400 0 0 0 200 200 400 0 0 0

(1)と(3)でA氏が払った100円は、各々、(2)と(4)でA氏に戻ってきます。この例では、リンゴかミカンが尽きるまで取引を続けることができます。取引を続けるかぎり、総生産(Y)は増えていきます。

相互に投資し合うことにより、貯蓄(S)はいくらでも増やせる

「相互に支出し合うことにより、GDPはいくらでも増やせる」ので、消費を投資に置き換えることで、相互に投資し合うことにより、貯蓄(S)はいくらでも増やせます。もちろん、この場合も資源とかの制約があるので、あくまで、計算上です。

例2

以下のような仮定を置くとします。

  • A氏は、工場を営んでいる。
  • B氏は、建築業を営んでいる。
  • A氏、B氏以外の経済主体は、ここでは考えない。
  • A氏は、1,000,000円を持っている。

A氏とB氏が相互に取引することにより、以下の表に示すようになります。

Ca Cb C Ia Ib I Ya Yb Y Sa Sb S
(1)A氏がB氏に1,000,000円で工場を建ててもらう。 0 0 0 1,000,000 0 1,000,000 0 1,000,000 1,000,000 0 1,000,000 1,000,000
(2)B氏がA氏から1,000,000円で工具類を買う。 0 0 0 1,000,000 1,000,000 2,000,000 1,000,000 1,000,000 2,000,000 1,000,000 1,000,000 2,000,000
(3)A氏がB氏に1,000,000円で工場を建ててもらう。 0 0 0 2,000,000 1,000,000 3,000,000 1,000,000 2,000,000 3,000,000 1,000,000 2,000,000 3,000,000
(4)B氏がA氏から1,000,000円で工具類を買う。 0 0 0 2,000,000 2,000,000 4,000,000 2,000,000 2,000,000 4,000,000 2,000,000 2,000,000 4,000,000

(1)と(3)でA氏が払った1,000,000円は、各々、(2)と(4)でA氏に戻ってきます。戻る度に工場と工具類が各々、1,000,000円分ずつ増えます。取引を続けるかぎり、貯蓄(S)は増えていきます。