貯蓄は投資の結果

先日より、amebaブログの「いわゆる日本の借金問題」というエントリのコメント欄でマクロ経済学の「貯蓄=投資」について、議論してきました。
私の主張について整理して、ここで述べたいと思います。
私の主張は、以下の二点です。

  • マクロ経済学の「貯蓄=投資」は妥当である。
  • ただし、因果関係は、マクロ経済学で一般に信じられている「貯蓄→投資」ではなく、「投資→貯蓄」である。

そして、その根拠は、以下の二点です。

  • 消費と投資は、行為として区別する必要がある。
  • ミクロ的には、「貯蓄は所得から消費を差し引いた残り」と定義できる。

消費と投資は違う

投資は貯蓄を減らさない

投資という行為と消費という行為の決定的な違いは、「貯蓄は所得から消費を差し引いた残り」ということにあります。ミクロ的には、消費がその分貯蓄を減らすのに対して、投資は貯蓄を減らしません。

投資と消費を区別しないと会計上、矛盾が生じる

投資と消費の分りやすい例を挙げて、違いを説明します。

  • コンビニが売るために買う、仕入れるのが投資。
  • コンビニから普通に商品を買うのが消費。

コンビニが買うのも消費とすると、買われた商品の価値は一旦、ゼロとなってしまい、コンビニが商品を売ると、価値ゼロだったものを売ったことになり、売り上げが所得になってしまいます。売り上げが全体が所得として課税されるということになります。マクロ的にも、付加価値の計上ではなく、売り上げを多重計算することになってしまいます。
また、価値ゼロとすると、横領等が起きても証拠が残らないということになります。

三者が関わる、ミクロの貯蓄の定義

定義上、ミクロの貯蓄を全て合計することにより、マクロの貯蓄が求まります。しかしながら、もれや多重計算が無いとは言えません。他のマクロの投資や消費の値との関係を確認する必要があります。
ミクロの貯蓄の定義には、下記の三者が関わっています。この三者の合計により、マクロの貯蓄が現れます。

  • 所得を得て、消費し、残りを貯蓄とする者
  • 上記の所得の基となる支出をする者
  • 上記で消費する商品やサービスを提供する者

三者を各々、α、β、γとし、所得をdI、消費をdCとします。
すると、αの所得が消費に対するものであった場合、貯蓄等は各々、以下のようになります。

所得 消費 投資 貯蓄
α dI dC 0 dI-dC
β 0 dI 0 -dI
γ dC 0 0 dC
合計 dI+dC dI+dC 0 0

αの所得が投資に対するものであった場合、貯蓄等は各々、以下のようになります。

所得 消費 投資 貯蓄
α dI dC 0 dI-dC
β 0 0 dI 0
γ dC 0 0 dC
合計 dI+dC dC dI dI

投資のみがマクロの貯蓄を増やす

ここまでで、以下のようなことがわかります。

  • 消費は、マクロの貯蓄に無関係。
  • マクロの貯蓄は投資により生じる。

上側の表から、消費のみであれば、マクロの貯蓄は、常にゼロであることがわかります。消費した側の貯蓄がその分減りますが、相手側がその分増えるため、合計はゼロです。ゼロを何万回、何億回足し合わせてもゼロですから、消費は、マクロの貯蓄に直接的には無関係です*1

マクロの貯蓄が投資により生じていることは、下側の表から明らかでしょう。生じる仕組みは、βの行を比較することによりわかります。すなわち、相手側に貯蓄が生じるのは、消費と同じです。しかしながら、投資の場合、消費と異なり、自身の貯蓄は減らず、ゼロのままです。このため、マクロの貯蓄が増えます。

*1:細かいことを言うと、消費が増えると、それに対応して、企業は設備投資等の投資を増やそうとするため、マクロの貯蓄は増える傾向があります。