満足化原理と圧縮ソフト

Windowsのデータ圧縮のファイルフォーマットのデファクト・スタンダードはZIP形式である。日本では、LZH形式もほぼ同等のシェアをもっている。これらが普及しているのは、これらが優れているからだろうか。実際にはそうではない。これらは、基本的には20年ほど前に開発されたものであり、その後の圧縮アルゴリズムの進歩により、もっと優れた形式が開発されている。
もっと優れた形式が開発されているのに、なぜそちらが普及していないかと言えば、一つにはネットワーク外部性のためである。圧縮ファイルのやりとりをするには、受け取る側が圧縮ファイルの展開ができる必要がある。したがって、圧縮ファイルのやりとりを行う際には、圧縮率の高さなどより、その形式の普及率から、圧縮形式が選択されやすい。
圧縮ファイルのやりとりをしない場合ならば、他の圧縮形式が普及してもおかしくないはずである。だが、そのような場合でも、他の圧縮形式はさほど普及していない。圧縮ソフトが高価ならばともかく、圧縮ソフトの多くが、無料でダウンロードして使用できるにもかかわらずである。それは、ほとんどの利用者が、ZIPやLZHの圧縮でほぼ満足しており、他の形式を試そうとしないからである。ほとんどの利用者にとっては、多少の不満はあっても、他の形式に切り替えるコストをかけるほどのものではない。したがって、ほとんどの利用者は、ZIPやLZHの圧縮を使い続ける。
ハーバート・サイモンが唱えたように、人はある程度満足できればよいという満足化の原理で行動している。ZIP形式やLZH形式が未だにデータ圧縮のデファクト・スタンダードなのは、そのためである。