ミクロ経済とマクロ経済はほとんど正反対

彼ら大企業が、株主や投資家の顔色ばかり見ている限り、つまり自己の財務体質の強化だけを行動基準にしているかぎり、労働分配率を高めるような振る舞いは決して選択はしないでしょう。

そして、合理的な各企業が自分にとって「最適な選択」(派遣切り)をすることは、社会全体として「最適な選択」(雇用安定)をすることとは同時に達成できないのです。

これはまさに社会的責任を有しているはずの大企業の『派遣切りのジレンマ』と呼べましょう。

ゲーム理論の「囚人のジレンマ」に喩えるのを的外れだとは思わない。だが、「合成の誤謬」という言葉の方がもっと適切な気がする。大企業が自己の財務体質の強化だけを行動基準にしているかぎり、労働分配率は低いままで、景気の回復は遅れ、業績の回復も遅れる。個々の企業にとっては、自己の財務体質の強化は重要だが、そればかり熱心にやればやるほど、社会全体としては景気の悪化を招き、個々の企業としても財務体質の悪化につながる。