QWERTY方式とネットワーク外部性

市場は独占へと向かう(3)」で、キーボードのキー配列をネットワーク外部性の例として挙げたところ、それに対する批判があった。独占やネットワーク外部性について誤解があるように思うので、反論してみよう。
QWERTY配列はいくつかの大きな欠点がある。それらは、QWERTY方式を基に多少変更した程度では大きく改善されない。だが、これらの欠点を克服した全く新しいキー配列にすることはできる。全く新しいキー配列にすること自体には、これまでの慣習などによるネットワーク外部性以外に大きな支障はない。Dvorak方式などが普及しないのはネットワーク外部性を考えないと説明できない。

QWERTY方式の欠点

QWERTY方式のキー配列には、タッチタイピングをする上で以下のような欠点がある。

  • 母音のキーが左右の手に分散している。
  • よく使うキーがホームポジション以外に分散している。
  • 各段のキーが段ごとにオフセットしている。

母音のキーが左右の手に分散しているため、左右のどちらかの手で続けてキーを打つことが起きやすい。左右の手でキーを交互に打つ方がキーをすばやく打ちやすいことがわかっており、そのためには、母音のキーが左右のどちらか一方に集まっている方が望ましい。
文字の出現頻度には大きな差があるから、よく使うキーをタッチタイピングホームポジションに集中させた方が指の動きが少なくてすむ。英語で最もよく出てくる文字は"e"で、最もよく出てくる単語は"the"であるが、QWERTY方式ではこれらはひとつもホームポジションに無い。
上の段のキーが左にずれているため、左手首を外側にひねる必要があり左手首に無理がかかりやすい。

これらは、現在となっては、過去との互換性以外に何ら正当な理由の無い、単なる欠点に過ぎない。これらの欠点を改善した方式が普及しないのは、ネットワーク外部性を考慮しないと説明がつかない。

ネットワーク外部性と独占

ネットワーク外部性に関して注意すべきことは、ネットワーク外部性による独占はネットワーク内部での独占であるということである。したがって、閉じたネットワークが複数存在する時は、各々のネットワークにおいて別々のものが独占することが起こりえる。例えば、言語はネットワーク外部性があるため、国や地域ごとに異なる言語が独占的に使用されるということになる。また、交流電源の周波数は強いネットワーク外部性をもつが、日本では東西で異なる周波数を使用している。

言語のネットワークとネットワーク外部性とを考慮すれば、キーボードのキー配列が言語圏により異なることは、キー配列のネットワーク外部性をむしろ証明するものとすら言える。