著作権の否定を前提とする完全競争市場

一種の独占である著作権を嫌う人が少なくないのはわかるのだが……。

ここで横軸は数量x、縦軸は価格pである。インターネットで音楽ファイルを複製する限界費用cはほぼゼロだから、市場が競争的だとすると、その価格はcに均等化して均衡価格p*に近づく。これが岸氏のいう「コンテンツの価値がゼロに近い水準」になる現象だが、「外部効果」とは無関係な当たり前の市場原理だ。現実に、ウェブではほとんどの情報は無料で入手でき、これが効率的だ。つまり岸氏の思い込みとは逆に、コンテンツの価格はゼロに近づくのが正しいのである。

池田氏の主張は、ミクロ経済学的に独占が成立している場合は、「限界費用」と「限界収益」の一致点から市場価格が決められるが、一方で複製コスト=生産コスト=限界費用が極小であり「市場が競争的」であるならば「コンテンツの価格はゼロに近づくのが正しい」となっている。 でも、ここで「独占」は分かるが、「市場が競争的」って何だろう。どうして固定費をかけてコンテンツを製作したタイトルホルダーが、フリーライダーと市場競争をして、赤字にならなければいけないのだろう。

そもそも、「完全競争市場」というものが、好き勝手にコピーして売ることができることを前提にしている。著作権の否定は完全競争から導かれる結論ではなく、むしろ、完全競争市場の前提である。

同じものを自由に作って売れることを前提にしている完全競争市場

完全競争市場の前提として、「財の同一性」や「市場への参入や市場からの退出の自由」などがある。同じものを他の市場参加者が自由に作って売れる。市場に参加していなくても市場に参加して同じものを自由に作って売れる。というのが、完全競争市場の前提である。著作権者が複製を制限できる著作権とは全く逆の前提の下に完全競争市場は成り立っている。