経済学が役に立たない理由

非合理的な行動を前提としている経済学

現代経済学は、人間の行動が合理的であることを前提としている。だが、人間の行動はもっと感情的である」といった批判をする人は少なくない。だが、経済学の本当の欠陥は、人間が非合理的な行動をすることを、非合理的な判断をすることを前提としていることにある。

「財の同一性」という非合理

「非合理的な行動をする」と書き、「非合理的に行動をする」とは書かなかった。全てにおいて、「非合理的な行動をする」ことを前提としているわけではない。ある非合理的な行動を経済学では前提にしているに過ぎない。だが、数学的に緻密に構築された経済学においては、たった一箇所の論理の破綻が、経済学の大部分を破綻させてしまう。その非合理な判断とは、「財の同一性」である。「財の同一性」は、完全競争市場の前提条件であるが、現実の市場では、非合理的な判断をしないかぎり成り立たない*1

買い手は売り手が異なる同じ商品を区別する

完全競争市場などの経済学のモデルでは、取引にかかるコスト(金銭的、時間的)を無視している。だから、100m離れた店で売られていても100km離れた店で売られていても、同じ商品で同じ価格なら区別する必要がない。取引にかかるコストを無視しているから、100人の売り手から1個ずつ100個買っても1人の売り手から100個買っても区別する必要がない。だが、現実の市場では、これらは区別される。区別することを意識することすらない。同じ商品で同じ価格なら、100m離れた店で買うか、100km離れた店で買うか考えることすらしない。1人の売り手から100個買うか、100人の売り手から1個ずつ100個買うか、など迷うどころか、100人の売り手から1個ずつ100個買うことなどまず夢想だにしない。買い手は売り手が異なる同じ商品を区別するから、「財の同一性」は現実の市場においては成り立たない。

*1:証券取引所における株の売買など財の同一性を強制される場合を除く