ミクロ経済学者は算数ができない

計算の順序を無視するミクロ経済学(者)

先日のエントリは、説明の中途半端さもあって、意図が適切に伝わらなかったようなので、ミクロ経済学の間違いについて説明し直します。

ミクロ経済学における根本的な間違いは計算の順序を無視していることです。「1を足して、次に2倍する」と「2倍して、次に1を足す」は違うという基本的なことが忘れられています。

経済判断は計算であると見なせます*1ミクロ経済学における計算(経済判断)の順序において、現実の経済における計算(経済判断)の順序が無視されているため、ミクロ経済学における理論やモデルが現実の経済と大きく異なるものになってしまっています。

ミクロ経済学者は買い物すらわかっていない

例えば、店に行って商品を買うのは、以下のような順序になります。

  1. 店に行く
  2. 買う
  3. 店から戻る

ミクロ経済学者はこれが、自分たちの主張するミクロ経済学のモデルと相容れないことに気づいていません。ミクロ経済学のモデルと異なり、買うのと売り手の選択は同時ではありません。買う前に売り手を選択しているため、売り手が異なる場合、同じ商品でも扱いが異なります。取引相手の区別の無い理論やモデルでは、普通の買い物が説明できません。

買う前に売り手を選択する

商品を買う前に「店に行く」とか「Webサイトを訪れる」とか「店に電話をかける」とかします。すなわち、買う前に売り手を選択します。

均衡モデル等のミクロ経済学のモデルでは、取引と取引相手の選択は同時ですが、現実の経済では、取引の前に取引相手の選択を行います。店は買い手を選択していないかのように見えますが、店をどこに立てるかという時点で、買い手を大まかに選択しています。

同じ商品でも売り手で買う側の扱いが異なる

買う前に売り手を選択するということは、異なる売り手の同じ商品を区別するということです。異なる売り手の同じ商品の数量を単純に足したりはできません。

買う際の商品の選択を以下のように喩えるとわかりやすいかもしれません。

  1. 一つの壷に赤い玉が2個、青い玉が6個入っており、壷から玉を1個無差別に取り出す。
  2. 壷が二つあり、赤い玉が2個、青い玉が6個、色毎に別々の壷に入っており、壷を無差別に選んだ後、壷から玉を1個無差別に取り出す。

前者がミクロ経済学のモデルであり、後者が現実の経済のモデルです。前者では赤い玉を取り出す確率が25%であるのに対して、後者では50%です。玉を2個取り出す場合は、さらに違いがはなはだしくなります。前者では赤い玉を2個取り出す確率が5%に満たないのに対して、後者では50%です。

ミクロ経済学のモデルとは売り手の合理的な行動が異なる

ミクロ経済学のモデルと現実の経済が大きく異なるため、売り手の合理的な行動も異なります。

上記の喩えにおいては、ミクロ経済学のモデルに相当する前者では赤い玉を増やせば増やすほど赤い玉を取り出す確率は高くなります。すなわち、生産量(供給量)を増やせば増やすほど売り上げが増え、利潤が増えます。それに対して、現実の経済に相当する後者では赤い玉を増やしても赤い玉を取り出す確率は変わりません。すなわち、生産量を増やしても売り上げは増えず、利潤は低下します。現実の経済では、取り出す玉の個数、すなわち、商品の需要量に一致する生産量で最大の利潤となります。

ニュートン力学のサルマネをしてしまったミクロ経済学

ミクロ経済学が計算(経済判断)の順序を無視するという間違いをしてしまった理由はニュートン力学のマネをしたからでしょう。ニュートン力学では、摩擦のないモデルを基に考えます。理想気体や完全黒体など理想化したモデルを基に考えるのは、物理学の他の分野でも一般に見られます。

しかし、ニュートン力学において摩擦と重力等の他の力は同時に作用しているもので本質的に順序はありません。したがって、摩擦を後回しに考えるというのは、単にその方が考えやすいからにすぎません。理想気体や完全黒体についても同様のことが言えます。

本質的に同時で順序が無いニュートン力学のマネをして、順序がある経済判断の順序を無視してしまったのが、ミクロ経済学の間違いです。

*1:経済判断に限らず、判断一般が計算であると見なしてもいいでしょう。