ミクロ経済学には基礎が無い

計算順序という経済学の初歩的問題』で説明したつもりでしたが、不十分だったようなので、別途記述します。

ミクロ経済学は基礎に欠けています。正確に言うなら、ミクロ経済学は、基礎的な数学的裏付けが大幅に不足しています。

ミクロ経済における経済判断も物理法則などと同様、ある種の計算と見なせます。しかしながら、似ているのはそこまでです。物理的同時に発生する事象を基本とするか、順序のある事象を基本とするかで、全く異なります。

ニュートン力学などの物理的に同時に発生する場合は、順序を変更しても、表記上の順序が変更されるだけです。そのため、抽象化したモデルで考えて、現実との差異の分を後で足すといったことができます。

それに対して、ミクロ経済のように物理的な順序がある場合は、順序を変更することは、物理的な順序を変更することになります。別の計算になります。そのため、抽象化したモデルで考えることが、一般にできません。現実との差異の分を後で足すといったことができません。そうすると、別の計算になります。

経済判断も物理法則と同様ある種の計算と見なせる

経済判断も物理法則と同様にある種の計算と見なせます。コンピューターを使った取引などを考えると明らかでしょう。

しかし、ニュートン力学などとの共通点はそこまでです。ミクロ経済学は、ニュートン力学などと異なる手法が必要となります。基本的な事象が物理的に同時か否かが異なるからです。

ニュートン力学などでは抽象化モデルが使える

ニュートン力学などでは抽象化したモデルが使えます。ニュートン力学では、摩擦の無い運動のモデルなどを使えます。現実の気体を扱うのに、理想気体を基に考えることができます。現実の電磁波の吸収や放射を扱うのに、完全黒体を基に考えることができます。

抽象化したモデルに現実との差異を足せば、現実の姿が求まります。物理的に同時に発生する場合は、まず、抽象化したモデルで考えて、現実との差異をそれに足すことで現実の姿が求まります。

ミクロ経済では抽象化モデルは使えない

ミクロ経済では抽象化したモデルは使えません。厳密には、ごく限られた抽象化したモデルしか使えません。大部分の抽象化したモデルは間違いです。

ミクロ経済では、抽象化したモデルと現実との差異を埋める方法が一般に存在しません。ミクロ経済における経済判断の対象となる経済行為は、物理的に同時ではありません。経済判断に対応する計算には、順序性があります。個々の全ての計算の間に順序があるわけではありませんが、特定の計算の間には順序があり、ほぼ全ての計算にその計算に依存する計算やその計算が依存する計算があります。

例えば、商品を店から買う場合、店に支払う価格だけでなく、現実には、店に行く費用(時間等も含む)といったものが必要です。店に行く費用は、店で買う前に発生します。したがって、店に行く費用の無いモデルに、店に行く費用を追加して考えるということはできません。それは、計算の順序を無視することであり、一般に数学的に無意味です。

一種の思考実験として、抽象化したモデルで考えることはかまいません。しかしながら、それを現実の経済に適用しようとすると、多くの場合、計算の順序は一般に変更できない、関数の交換法則は一般に成り立たないという数学的法則に反します。

ミクロ経済学はゼロからやり直し

上記のような理由で、ミクロ経済学は、ほぼゼロからやり直さなければなりません。多くの抽象化したモデルが使えません。部分均衡モデルも一般均衡モデルも使えません。

ルーカス批判と呼ばれるマクロ経済学に対する批判があります。マクロ経済学は、ミクロ経済学による裏付けに欠け、予想の変化による経済行為の変化に対して考慮していないというものです。この批判には、一理あります。しかし、残念ながら、ミクロ経済学自体が、基礎的な数学的裏付けが大幅に不足しています。

ミクロ経済学には、生物学や医学の基礎的な手法が必要でしょう。二重盲検法といった方法による客観的なデータが必要です。