モデルから外した要素を追加できないミクロ経済学のモデル

ミクロ経済学には数学的基礎は無い』では、説明が不十分だったようなので、説明し直します。

自然科学では、理想化・抽象化したモデルにモデルから外した要素も追加して、より現実的なモデルに拡張することが一般にできます。しかし、部分均衡モデルや一般均衡モデルといったミクロ経済学のモデルでは、こうしたことが一般にできません。なぜなら、ミクロ経済学のモデルから外した要素の一部は、取引以前に発生するものだからです。計算の順序は一般に変えられません。数学的に言うなら、合成関数の交換法則は一般に成り立たないというところでしょう

摩擦は他の力と同時に作用するので、摩擦の無いモデルにそのまま追加することができます。しかし、取引に付随する費用は、その一部が取引の前に発生するので、取引に付随する費用の無いモデルに追加することはできません。費用のあるモデルを作り直す必要があります。

このため、ミクロ経済学における合理的行動は、現実の経済における合理的行動とは必ずしも一致しません。例えば、価格等の取引条件が同じで、同じ商品ならば、ミクロ経済学では、無差別に扱うことになっています。しかし、現実の経済では、取引全体の費用における限界費用に差が生じるため、取引相手を選択するのが、合理的な行動となります。