経済学と現実経済との途方もない隔たり

読み書きや算数や万有引力の法則程度の常識として経済学のイロハぐらいをしっかり学ばせていればここまでバカげた言論は跋扈しないはずだが、おそらく日本の場合は経済学のような「学問」は現実のリアル社会には適用できない机上の空論程度にしか考えられていない傾向が強く、そのために常識としてすら腹に入っていないことがこうなる最大の原因だろうと思う。なので需要と供給の関係も無視した不思議な精神論的経営論やトンデモ経済論が成立したりもするんじゃないだろうか。

「経済学がリアル社会には適用できない机上の空論」と思われている面は否定できない。そして、その責任の大部分は、経済学と経済学者に帰すべきだと思う。

経済学は経営学と相容れない

基礎的な経営分析である損益分岐点分析すら、主流派経済学が想定する均衡モデルと相容れない。限界費用逓増を前提とする均衡モデルに対し、損益分岐点分析では限界費用一定を前提とする。そもそも、損益分岐点を問題にすること自体、各供給者(生産者)にとって需要が有限であることを前提としており、各供給者にとって需要が無限大として近似できるという均衡モデルの前提と相容れない。

現実経済の市場と似ても似つかない完全競争市場

経済学で理想化した市場として扱われる完全競争市場は、現実経済の市場と似ても似つかない。「完全競争市場を完全妄想市場と呼びたくなる」と書いたこともある。それは、完全競争市場ほど現実経済の市場が競争的でないということではない。競争の仕方が現実経済の市場では、完全競争市場とは全く違うということである。
完全競争市場と現実経済の市場を比較して表にすると以下のようになる*1

  完全競争市場 現実経済の市場
商品代価以外の取引費用
商品の選択 無差別選択 取引相手を選択
各供給者にとっての需要 無限大として近似可能 有限
限界費用 逓増 ほぼ一定
供給曲線 成り立つ 通常成り立たない

このように完全競争市場と現実経済の市場とを比較すると、正反対と言ってもよいくらいである。

*1:商品にはサービスも含む、また費用には時間等の金銭以外の費用も含む