均衡モデルはどうおかしいか(1)

4月25日のエントリのコメントなどを読むと、どうも基本的なところで認識が食い違っているようだから基礎的なところから説明し直そう。

まず、利潤と供給量との関係を具体的な例をあげて説明しよう。大きな街に焼きたてのパンを売るパン屋があるとする。このパン屋について以下のような条件を仮定する。

  • 味などの取引条件は、他の店と同等。
  • 価格200円/個(他の店と同じ)。
  • その店のパンに対する需要量は、1,000個/日。
  • パン1個当たりの変動費50円。
  • 固定費40,000円/日。
  • 1日に焼けるパンは最大3,000個。
  • 焼いたその日に売れなかった分は廃棄。
  • 廃棄費用はゼロ。

また、話を簡単にするため、パンの種類は1種類のみとする。

利潤については、以下のような式で表すことができる*1

	利潤 = 単位当たり価格 × min(需要量,供給量) - (固定費 + 単位当たり変動費 × 供給量)

上記の条件下で1日に焼くパンの数(供給量)と利潤との関係は以下のようになる。

供給量と利潤との関係
供給量
(個/日)
費用
(円/日)
費用/供給量
(円/個)
売上
(円/日)
利潤
(円/日)
3,000190,00063200,00010,000
2,500165,00066200,00035,000
2,000140,00070200,00060,000
1,500115,00077200,00085,000
1,00090,00090200,000110,000
50065,000130100,00035,000

上記の条件のうち価格のみが変わった場合、利潤との関係は以下のようになる。

価格と供給量と利潤との関係
供給量
(個/日)
各価格における利潤(円/日)
50円100円150円200円250円300円400円500円
3,000-140,000-90,000-40,00010,00060,000110,000210,000310,000
2,500-115,000-65,000-15,00035,00085,000135,000235,000335,000
2,000-90,000-40,00010,00060,000110,000160,000260,000360,000
1,500-65,000-15,00035,00085,000135,000185,000285,000385,000
1,000-40,00010,00060,000110,000160,000210,000310,000410,000
500-40,000-15,00010,00035,00060,00085,000135,000185,000

このように、売り手の供給能力が売り手に対する需要量を上回っている場合、一般に供給量を減らして需要量に一致させることにより利潤が最大になる。現実には供給量も需要量も厳密に一定ではないから、供給量を需要量に一致させることは難しい。トヨタ生産方式TOCは、効率的に供給量を需要量に一致させようとする手段の一つである。

売り手の供給能力が売り手に対する需要量を下回っている場合はどうなるか。現実には、このようなことはたまにしか起きない。売り手の供給能力が売り手に対する需要量を下回っているということは売り切れで買えない客がでてくるということだが、通常は売り切れで買えない客がいないように売り手は最大限の努力を払う。なぜならば、買えないということは、買い手におけるその売り手の評価を下げることだからである。他の条件が同じだとしたら、99%確実にパンが買えるパン屋と50%の確率で売れ切れで買えないパン屋とどちらに行くだろうか。考えるまでもなく前者である。交通費や時間がムダになるから、売り切れが頻繁に起きるような店を客は選ばない。売り手の供給能力が売り手に対する需要量を下回っているということは、取引条件においてその売り手は他の売り手に対して不利な条件下におかれているということである。当然不利な条件下におかれることは避けようとするから、売り手の供給能力が売り手に対する需要量を下回ることはたまにしか起きない。

「焼きたてのパン」で「その日に売れなかった分は廃棄」と仮定したが、商品の寿命が半永久的であっても話は変わらない。やはり、供給量を減らして需要量に一致させることにより利潤が最大になる。

*1:min(x,y)は、xとyとのうち小さい方を返すとする