人気商品が安くなる理由

12日の日本経済新聞朝刊の特集「消費をつかむ」で、人気機種で高スペックの商品が、あまり人気がなくスペックも低い商品よりも安くなっている現象が紹介されている。この記事に関してエントリが書かれている。この経済学の常識に反する事実について各々考察されている。だが、どちらも的をはずしているようだ。

顧客が価格情報に詳しくなったからではない

日経の記事では「ネットを駆使することにより顧客が価格情報に詳しくなった」のが理由だとされている。「顧客が価格情報に詳しくなった」のは事実だろう。だが、そもそも、経済学のモデルでは、顧客が価格など取引に必要な情報については完全な情報を持っているモデルが基本になっている。経済学が想定しているモデルに近づくことが、経済学が想定しているモデルとかけ離れることであるというのは、筋が通らない。経済学が間違っているということを前提としないと、この記事は意味が通らなくなる。

供給曲線のシフトでは説明できない

エントリでは以下のように理由を推測している

需要供給曲線で言えば、供給曲線そのものを非常に短期間でオンデマンドに上下にシフトできるようになり、均衡点を定め均衡価格と均衡数量を実現できるようになった、ということです。

生産した商品が全て売れるかのように行動するという前提の下で、価格と供給量の対応関係をあらわしたものが供給曲線であり、その前提の下では、価格と供給量の対応関係を短期間に変化させることは難しいし、「生産した商品が全て売れる」のであれば、価格に見合うコストで作れる限り作ればよく、価格と供給量の対応関係を短期間に変化させる必要もない。最大の問題は、「生産した商品が全て売れるかのように行動する」という前提が、現実の経済ではほとんど成り立たないことである。このため、このブログでは、供給曲線が成り立たないということを何度も述べている。

多く生産すればするほど生産量あたりのコストは低下する。

コストには、生産量とは関係なく一定の固定費と生産量にほぼ比例する変動費とがある。生産量が多ければ多いほど、生産量あたりの固定費は少なくなる。人気機種で高スペックの商品の方が、あまり人気がなくスペックも低い商品よりも生産量が多いためコストが安くなることが起こりうる。

コスト低下のメリットを顧客が得ることができるようになった。

従来であれば、メーカーの方が力関係で強かったので、人気機種で高スペックの商品のコストの低下の利益をメーカーが主に享受していた。「ネットを駆使することにより顧客が価格情報に詳しくなった」ため、力関係が顧客側に移り、コストの低下が価格の低下となり、「人気機種で高スペックの商品が、あまり人気がなくスペックも低い商品よりも安くなる」ということが起きるようになった。