待ち行列理論で見る経済学の大間違い

統制経済を前提としている均衡モデル

部分均衡モデルの図
頭の中だけで考えたモデルは、大きな抜けがあったりすることが少なくない。

しばしば「こんなんつくられへんやんけっ」ってことも起こる。

経済学の均衡モデルがまさにこれである。
ある価格で需要における数量と供給における数量とが一致するという均衡モデルは、一見美しいが実際は机上の空論に過ぎない。均衡モデルには待ち時間の概念がないため、在庫管理の必要性が理解できず、トヨタ生産方式TOCを理解できない。
皮肉なことだが、均衡モデルは、多くの経済学者が主張するのとは逆にある種の統制経済を前提としており、現実の市場経済ではほとんどの場合適用できない。

市場経済では均衡モデルと異なり、待ちが発生する

市場経済では個々の顧客の要求は顧客の都合により発生し、他の顧客の要求や要求の処理とは基本的に独立している。したがって、ある顧客の要求を処理している間に次の顧客の要求がくるという確率はゼロにはならない。ここで、「待ち」が発生する。顧客の要求が独立しておらず、顧客の要求が顧客の要求の処理と同期していれば、待ちを発生しないようにすることができる。それはある種理想の統制経済である。均衡モデルが想定してるのがこの理想の統制経済である。現実の経済では統制経済でも待ちは発生する。
市場経済では、顧客の側が商品を待つか、商品の側が顧客を待つか、いずれかの形で待ち合わせるようにしている。時間はコストであり、長く待たされることに人間は耐えられないから、多くの場合は商品の側が顧客を待つ形式をとる。

市場経済では均衡モデルと異なり、需要と供給とは独立していない

市場経済では待ちが発生する。そして、待ち時間は需要と供給の双方に依存する。レジや銀行のATMでできる待ち行列を見ていてもわかるように、待ち行列の長さ*1は、処理能力と顧客の要求量の双方に依存している。待ち時間というコストが需要と供給との双方に依存しているということである。待ち時間を需要側か供給側か、少なくとも一方は負担せざるを得ないから、少なくとも一方はもう一方の影響を受ける。したがって、需要と供給とを各々独立した関数と見る均衡モデルは市場経済には一般に適用できない。

均衡モデルに従うと需要量と供給量が一致する時の待ち時間は無限大

一律に顧客の側が商品を待つとして、待ち時間を考えてみよう。均衡モデルにおける数量は厳密に言うと、「単位時間当たりの数量」なので、需要量を待ち行列理論で言うところの平均到着率とと見なすことができる。また、均衡モデルでは、供給能力は常に100%稼動していると仮定されている*2ので、供給量を平均サービス率と見なすことができる。そうすると、需要量と供給量が一致するということは、待ち行列理論で言うところの平均利用率が100%になった状態と考えることができる。そして、平均利用率が100%の時、待ち行列の長さは∞(無限大)となり、待ち時間も∞となる。経済活動がストップしてしまうことになる。
商品の側が顧客を待つ場合でも、供給能力が100%稼動しているとすると、同様に待ち行列の長さが無限大になってしまうため、経済は破綻してしまう。現実の経済が待ち時間が無限大になって破綻してしまわないのは、供給能力に余力を持たせるように供給側が常に心がけているからである。

*1:厳密に言うと、待ち行列の平均の長さ

*2:厳密に言うと、価格と限界費用とが等しい