ミクロ経済学こそ疑似科学

完全競争市場は完全妄想市場

かつてレーガン米大統領は、政策判斷に占星術師の意見を取り入れてゐたことが曝露され、世間の物笑ひになつた。しかし少なくとも現在の日本人にレーガンを笑ふ資格はない。占星術と五十歩百歩の疑似科學によつて經濟政策を決めようとしてゐるからだ。その疑似科學の名を、現代マクロ經濟學といふ。

マクロ経済学が全く正しいと言うつもりはありませんが、疑似科学という呼び名はマクロ経済学よりミクロ経済学の方がふさわしいです。間違いだらけのミクロ経済学に基づいているから、マクロ経済学疑似科学に見えているだけでしょう。例えば、経済学の教科書のすぐ最初に出てくる右上がりの供給曲線は、事実上、この世のどの企業ももちません。供給曲線は、完全競争市場における個々の売り手にとって水平な需要曲線の下で成り立ちますが、世界は「売れ残り」で満ちており、個々の売り手は右下がりの需要曲線に直面しています。現実の市場は、完全競争市場とは似ても似つきません。完全競争市場は、現実の事情の近似ではなく、経済学者の頭の中にだけ存在する完全妄想市場とでも呼ぶべきものです。完全競争市場というモデルは、経済学部の大学院生辺りが思考実験として扱うのであればともかく、現実の経済の理解にはむしろ有害です。

天動説の方が均衡モデルより科学的

過去に二つの事象が同時に起こつたからといつて、將來もさうなるとは限らないし、ましてや一方(インフレ)を起こせば他方(經濟成長)も起こる保證はない。言つてみれば、「歴史上、牡羊坐生まれにはリーダーシップに優れた人物が多い。だから牡羊坐生まれはリーダーシップに優れてゐる。だから次の仕事は牡羊坐生まれに任せなさい」といふ占星術師の御託宣と變はらない。

この批判は、むしろミクロ経済学の均衡モデルにこそあてはまります。需要曲線と供給曲線で価格と数量の変化について説明できるから均衡モデルが正しいというのは、天動説で天体の動きが説明できるから天動説が正しいというのと同レベルです。事実を説明できるようモデルの改良を続けたという点で、私には天動説の方が均衡モデルより科学的に見えます。