供給曲線は成り立たない(2)

「売れ残りが起きるから供給曲線は成り立たない」と述べた。ではなぜ、均衡モデルでは、生産者が売れ残りが起きないかのように行動するということになるのだろう。

均衡モデルでは、個々の生産者の生産量(供給量)が市場全体の生産量に比べて非常に小さい場合、個々の生産者は入れ残りが起きないかのように行動することになる。それは以下のように説明できる。
1つのつぼの中にたくさんの玉が入っている。買い手はつぼから無差別に玉を取り出し、取り出した玉の売り手に代金を支払う。つぼの中にはS個の玉が入っており、買い手はm個取り出す。S個のうちn個はある売り手が入れた玉である。
とすると、nやmがSに比べて非常に小さい時、その売り手の玉の売れる期待値は「nm/S」で近似できる。つまり、売り手の玉の売れる期待値はnに比例すると見なせる事になる。

このロジックは間違っている。これは、市場における一般の売買をモデル化したものではない。一般の売買では売買の前に相手の選択を行う。本を買う前に、本屋に行く、ウェブサイトに訪れる、といった買う相手の選択を行う。「1つのつぼの中にたくさんの玉が入っている」のではなく、「売り手ごとにつぼがあり、たくさんの玉が入っている」のである。

市場における一般の売買は、以下のようなモデルになる。
売り手ごとにつぼがあり、たくさんの玉が入っている。買い手はつぼを選び、選んだつぼから玉を取り出し、取り出した玉の代金を売り手に支払う。全部のつぼの中には合計でS個の玉が入っており、S個のうちn個はある売り手が入れた玉である。買い手はm個取り出す。1つのつぼで足りなければ、別のつぼを選び合計がmになるまで続ける。
とすると、nがm以上であれば、その売り手の玉の売れる期待値は買い手が売り手のつぼを選ぶ確率だけに依存することになる。

たった1つの取引所でのみしか取引ができないという均衡モデルは、市場経済モデル化したものではなく、理想的な統制経済モデル化したものと見なすべきである。