「財政再建」は財政悪化を招く

ある意味典型的な「合成の誤謬

財政黒字は、GDPを減少させる方向に作用しますから、財政黒字が続くということは景気が過熱していることを暗示していることになります。

図表2は前回のエントリーで触れた日本国の純資産・純債務ベースでのバランスシートです。 この図で政府債務が減るパターンとして考えられるのは、企業や家計が積極的に債務を増やし、政府債務の肩代わりをするケースです。 1920年代の米国、あるいは1985-90年の日本はこのパターンでしょう。 バブルにより税収も増え、政府債務が減りますが、その後のバブル崩壊により大きな景気後退に陥っています。

意図しない財政黒字でも、景気の過熱の反動のリスクがあります。意図的に財政黒字を目指した場合、GDPを減少させる作用が強くあらわれすぎて、景気を大幅に悪化させるのは、十分ありえることです。

逆に、政府債務削減自身を目的として緊縮財政を行った場合、1929-31年の井上財政や1997年の橋本増税のように、債務削減は実現せず、いきなり景気後退が引き起こされてしまうようです。(政府債務削減策が家計資産削減に働く)

「政府債務削減策が家計資産削減に働く」ため、家計が資産削減を緩和しようとして支出を抑制しようとしたのが、急激な景気後退の原因だと思います。政府の債務削減は、広い意味で貯蓄を増やそうとしたと言えますし、家計の資産削減の緩和も貯蓄を減らすまいとしたと言えます。皆が貯蓄を増やそう、減らすまいと努力した結果、合成の誤謬で景気後退を招き、財政悪化という「貯蓄の減少」を引き起こしたということです。