ISバランス論の摩訶不思議(6)

ISバランス論に対する反論には、以下のようなものが思い浮かびます。

  • 投資(I)は受動的に決定される
  • 貯蓄(S)は何から決定されるのか
  • 財政赤字と低金利が両立する

投資(I)は受動的に決定される

まず、ISバランス論の基本的な問題は、投資(I)が、消費や政府(支出)、輸出、輸入の影響を受けて受動的に値が決定されるということです。

              (S-I) = (G-T) + (EX-IM)                式(1)

消費や政府(支出)、輸出、輸入は、 式(1)の右辺の政府(支出)(G)、輸出(EX)、輸入(IM)の各々の値だけではなく、左辺の投資(I)にも影響を与えます。これは、投資(I)に意図せざる在庫投資によるものが含まれているからです。輸出や輸入自体が通常、投資(I)の値も変化させます。式(1)の左辺から、右辺が一方的に決定されるというのは、意図せざる在庫投資を考える時、論理的に矛盾します。

貯蓄(S)は何から決定されるのか

また、ISバランス論には、貯蓄(S)は何から決定されるのかという問題もあります。式(1)'の右辺から左辺の貯蓄(S)が決定されるなら、別に問題ありませんが、ISバランス論では、逆になります。この場合、貯蓄(S)を決定するものがなければなりません。ISバランス論では、消費(C)がそれであるかのように言われているようです。しかし、消費(C)は、意図せざる在庫投資の分を除き、貯蓄(S)に影響を与えません。消費することは、消費した側の貯蓄を減少させますが、その商品を提供した側の貯蓄を増加させます。そのため、消費(C)の増減は、意図せざる在庫投資の分を除き、貯蓄(S)の増減に影響を与えません。

                  S = I + (G-T) + (EX-IM)            式(1)'

財政赤字と低金利が両立する

日本では、バブル崩壊後、財政赤字と低金利が続いています。財政赤字が続きながら、一方では、低金利の記録を更新し続けてきました。これは、なぜでしょうか?式(1)'の右辺から、左辺が決定されると考えると、すんなり説明がつきます。右辺の(G-T)が左辺の貯蓄(S)の財源になっているのです。財政赤字が貯蓄の財源になっており、それが民間の金融資産を増やし続けているため、財政赤字と低金利が両立し続けています。