ISバランス論の摩訶不思議(1)

相手のある取引が一方だけの都合で決まる?

経済学には、考えれば考えるほど、おかしいとしか思えない理論がいくつかありますが、相手のある取引が一方だけの都合で決まるというISバランス論はその最たるものの一つです。「為替・貿易論に、トンデモが多い理由」は、経済学の為替・貿易論がトンデモだからではないでしょうか。

野口旭『グローバル経済を学ぶ』

答えは、資本収支が赤字(黒字)「筆者注:国際収支表記載マニュアルの変更により、現在は『金融収支が黒字(赤字)』」だから、経常収支が黒字(赤字)になるしかありません。そしてまさにそれが正しい答えなのです。

経常収支が動くためには資本収支(筆者注:現在は金融収支と表記)が動かねばならず、その為には貯蓄・投資バランスが動かなくてはならないからです。これが経常収支の定義と、それについての論理的推論から導かれる真実です。

ISバランス論です。カネが先、実物取引は後なのです。

逆では?経常収支が先で金融収支(資本収支)が後でしょう?多くの経済学者が、金融収支が先で経常収支が後と言っているのは知っていますが、論理的におかしいです。
経常収支は、相手となる国の都合でも値が左右されます。それが一方だけの都合で決まるというのは無理があります。思考実験をしてみましょう。他の国がその国との取引を完全に停止すれば、経常収支はゼロとなります。貯蓄(S)や投資(I)の値をどうしようとしても、経常収支の値を変えることはできません。

全ての国の経常収支の合計はゼロである

式から言っても、金融収支が先で経常収支が後というのはおかしいです。
全ての国の経常収支の合計はゼロですから、ある国の経常収支は、それ以外の国の経常収支の合計と、絶対値が同じで符号が逆になります。すなわち、ある国のISバランスが経常収支を決定すると言うことは、ある国のISバランスがそれ以外の国の経常収支の合計を決定すると言っていることを意味します。