商品の限界費用を素早く、正確に知ることはできない

現実経済の市場は、ミクロ経済学の反証に満ちています。ここに挙げているのも、その一つです。

ミクロ経済学の部分均衡モデル等では、商品の供給の数量は、商品の限界費用と市場価格が一致するレベルで決まると仮定されています。しかし、現実経済に合っていません。商品の限界費用を素早く、正確に知ることはできないからです。

限界費用を正しく知るには、以下のような問題があります。

  • 大勢いる間接部門
  • 複数の種類の商品に共通する原材料や機械、労働者
  • 日々変動する為替レートや原材料の価格

多くの供給者では、商品の生産等に直接は関係しない間接部門に相当数の人員がいます。これらの人々が限界費用にどう影響しているかは、重要な問題です。大まかな近似としては、完全に固定的費用として、その部分の限界費用としてはゼロであると見なすことも有りでしょう。しかし、厳密にそれで良いかは難問です。

複数の種類の商品に共通する原材料や機械、労働者等の費用は、当然、限界費用に反映する必要があります。しかし、複数の種類のどれにどれだけ課すかは難問です。最終的な商品に残る原材料ならば、最終的な商品における比率で良いでしょう。しかし、残らないものは、こうした客観的基準があるとは限りません。

さらに厄介なのは、部分均衡モデル等では、現在の供給の数量における限界費用ではなく、供給の数量を決めるための限界費用を計算する必要があるということです。すなわち、個々に独立した限界費用を計算するのではなく、膨大な変数のある連立方程式として、供給している全ての商品の限界数量を一度に計算する必要があります。

もちろん、現実経済には、計測する費用が発生します。計測の誤差による制約もあります。

こうしたことが問題にならないのは、限界費用を計算して供給の数量を決めたりしようとしていないからということになります。大まかな指針としての近似値の限界費用は必要でも、『供給は需要で決まる』のならば、供給の数量を決めるための限界費用は必要ないということになります。